レベル2地震動の設定と地震波形の処理|LANDPLUS.WORK
TECHNICAL NOTE / GROUND MOTION  02

レベル2地震動の設定と
地震波形の処理

「レベル2地震動は方法1〜3を比較し、適切な選択・設定を行うこと」—— 近年の耐震診断業務の特記仕様書で標準的に見かける文言です。 この一文が、解析手法・工数・費用のすべてを左右します。 本ページでは、方法1〜4の使い分けから、公開波形の取得、速度→加速度変換、 加速度応答スペクトルの算定、下限地震動との比較、採用波の決定までを、 実際に手を動かす順序で整理します。

L2地震動 方法1-4 J-SHIS 応答スペクトル 波形処理 下限地震動
最初に整理すべき誤解:
方法1〜3の比較は「入力地震動を決める」ための作業であり、構造解析を3通り実施することではありません。 比較の対象は地震動そのもの(加速度応答スペクトル・地表面加速度・時刻歴)です。 構造解析は、採用した1つの設計地震動(または包絡)で1系統のみ実施します。 成果としては報告書に「方法1〜3の比較表+採用理由」を残せば、特記の要求は満たされます。

1. 設定方法1〜4の違い

指針は、レベル2地震動の設定方法を4つに区分しています。重要なのは、 どの方法を選ぶかによって「得られるもの」が違うことです。 動的解析を行うには時刻歴波形が必要ですが、方法によっては時刻歴が出ません。

設定方法 設定方針 動的解析に用いる設計地震動 静的非線形解析(プッシュオーバー等)
方法1震源断層を想定した地震動評価を行い、当該地点での地震動を使用評価結果の地表面または工学的基盤面の加速度時刻歴波形もしくは応答スペクトル評価結果の応答スペクトル
方法2地域防災計画等の想定地震動を使用想定地震動の地表面または工学的基盤面の加速度時刻歴波形想定地震動の応答スペクトル
方法3同様な地盤条件の地表面で得られた震度6強〜7の観測記録を使用地震記録の加速度時刻歴波形地震記録の応答スペクトル
方法4兵庫県南部地震の観測記録を基に設定した設計地震動・設計応答スペクトル適用対象外指針が示す設計応答スペクトル等
  • 方法1〜3では原則として静的線形解析を適用しません。ただし方法4と同程度以上であり、地震動の応答特性から静的線形解析の適用が可能と判断された場合は用いてよいとされています。
  • 動的解析の入力地震動には、周期特性の異なる複数の地震動の時刻歴波形を用いることが求められます。
  • 方法4には上限値があり、設計地震動の加速度応答スペクトルの固有周期0.1〜0.3秒の平均値が上限値(1,400gal = 設計水平震度で約1.4)を超えるかどうかが、L2耐震計算法の選定フローの分岐条件になります。
  • 方法4の適用にあたっては、固有周期0.1〜0.2秒の応答加速度が下方に調整されているため、固有周期0.2秒における応答加速度を延長して適用するなど、安全余裕度を考慮することが重要とされています。
  • レベル1地震動は方法1〜4とは別系統で、従来どおり基準水平震度と地域別補正係数 cZ による震度法で設定します。
工程上のクリティカルパス: L2の設定結果(方法4の上限値を上回るか)と地盤調査結果(良質・一様地盤か)が出るまで、 L2の耐震計算法は確定できません。
ボーリング完了 → 地盤モデル → L2設定 → 解析手法確定 → 解析
この順序が崩せないため、着手時協議でL2を最優先で固める必要があります。

2. 方法1/2/3の比較 ── 実務での使い分け

観点 方法1
断層モデルによる強震動評価
方法2
地域防災計画等の想定地震動
方法3
同種地盤の強震観測記録
得られる成果時刻歴波形(動的非線形にそのまま使える)時刻歴波形(公開されていれば取得可)時刻歴波形(記録そのもの)
必要データ断層パラメータ、深部地盤構造、浅部地盤(ボーリング)防災アセスメント調査等のメッシュ波形。自治体照会が必要な場合あり対象地と類似の地盤条件で得られた震度6強〜7の記録
工数・費用最大。破壊開始点・アスペリティ配置で結果が振れるため3〜5ケース必要。専門解析の外注が必要な場合あり中〜小。公開波形が使えれば大幅に圧縮できる
長所断層近傍の指向性パルスを表現できる。重要度A1施設として説明力が最も高い発注者の防災計画と完全に整合=説明が通りやすい実記録であり作為が入らない
短所費用・工数が最大。断層モデルの不確実性が大きいメッシュが粗い。深部地盤モデルが調査時点のもの対象地の地盤・震源特性と厳密には一致しない
当社での標準的な位置づけ断層近傍かつ重要度A1のとき公開波形が入手できる地域ではクロスチェック
費用が一桁変わる分岐点: 「方法1(断層モデルによる強震動評価)まで求めるのか、方法2ベースでよいのか」—— これは発注者に対する最重要の確認事項です。方法1の波形作成は本来独立した費用項目であり、 「診断条件整理」に内包させると必ず不足します。見積では 「レベル2地震動の設定(方法1〜3の比較検討・入力地震動の作成) 1式」 として切り出し、金額を明示することを推奨します。
入力波の「ケース数」は比較とは別問題です。
方法1では破壊開始点・アスペリティ配置により波形が大きく振れるため、通常3〜5ケースを作成します。 これをすべて構造解析に入力するか、最も厳しい1波を採用するかで、 構造解析の回数が3倍変わります。3次元シェルの動的非線形を3回回せば、計算時間も結果整理の工数も約3倍です。
→ 着手時協議で 「応答スペクトルが最も厳しい1波を採用する」旨を協議記録に書面化し、 複数波入力を求められた場合は条件変更協議の対象としてください。

3. 波形の取得 ── 公開データからの実務手順

方法2で用いる想定地震動の波形は、防災科研 J-SHIS「震源断層を特定した地震動予測地図」から 対象メッシュの波形を取得できるケースがあります。実務では次の順で進めます。

対象施設の緯度経度を確定し、該当メッシュコードを特定する。波形は1kmの三次メッシュ単位で提供されることが多く、施設が属する500mメッシュと表記が異なる場合があります。報告書にはどのメッシュの波形かを明記します。
地域防災計画で「考慮されている地震」のうち、波形データが入手可能なものを抽出する。防災計画には多数の想定地震が並びますが、波形が公開されているものに限られます。入手できないものは方法2の対象外である旨を報告書に記載します。
断層ごとに複数の破壊シナリオ(CASE)が提供される場合、方向別(NS/EW)に最大速度となるCASEを採用する。採用CASE番号と最大速度を一覧表に残します。
「全国どこでも起こりうるM6.9直下型地震」を加える。特定の活断層が遠い地点では、これが支配的になることが少なくありません。
下限地震動を設定する。指針の参考資料「方法1〜3の下限値地震動の例」に示される、コンクリート標準示方書(耐震性能照査編)付録の模擬波形を用いるのが一般的です。
実務での典型的な結果: 活断層由来の想定地震動(最大加速度 130〜190 gal 程度)よりも、 当該市直下型地震(M6.9、最大 −627 gal 程度)と下限地震動(内陸型タイプ2、最大 −700 gal 程度) のほうが全周期帯で明らかに大きくなるケースが頻繁に生じます。 この場合、1次元地盤応答解析に進めるのはこの2波に絞られ、以降の工数を合理的に圧縮できます。 (当社解析例。施設名・地域は非公開)

4. 波形処理 ── 「そのまま使える波形」はほぼ存在しない

公開波形をダウンロードしても、そのまま応答解析に入力できることはまずありません。 単位、物理量、サンプリング、ヘッダ形式のいずれかが必ず噛み合いません。 実務で必要になる処理は次のとおりです。

処理内容実務上の注意
① スケールファクタの適用 配布ファイルは整数値+ヘッダの Scale Factor(例 14.492393(cm/s)/8388608)で格納される。乗数に換算して物理量に戻す。 ヘッダ行数(K-NET系で17行等)を正確にスキップする。1行ずれると全体が壊れる。
② 物理量の変換(速度→加速度) 工学的基盤の速度時刻歴で配布されることが多い。応答スペクトル計算は加速度を前提とするため、1回微分が必要。
2のべき乗長へゼロ詰め → FFT → ×iω → 逆FFT(フーリエ級数法)
ここを飛ばすと結果が桁で狂う。「速度なのか加速度なのか」をヘッダで必ず確認する。
③ 基線補正 平均値0/1次/2次のいずれか、または「なし」。基線補正を掛けるとPGVがヘッダ記載値とずれるため、照合の段階では「なし」に揃えるのが実務的。 報告書には採用した補正方法を明記する。掛けた/掛けないで数値が変わる。
④ 積分(加速度→速度・変位) ÷iω で積分。低周波側のドリフトを避けるため、ハイパス(既定 0.1 Hz 程度)でカットする。 PGV・PGD を報告する場合、カットオフ周波数の記載が必須。
⑤ 時間刻み・データ点数 Δt(例 1/120 s = 0.00833333、あるいは 0.01/0.02 s)と全点数を確定。FFT点数は データ点数以上の2のべき乗(例 12,000点 → 16,384点)。 構造解析側のΔt(例 1/500 s)と異なる場合、リサンプリングの要否を判断する。
⑥ 加速度応答スペクトルの算定 Nigam & Jennings(1969)の厳密解による。周期範囲 0.02〜5 s、対数90分割(91点)、減衰定数 h=5% が実務標準。 h が 5% 以外のときは、指針の規定どおり √(5/h) 倍で補正する(h=10% なら 0.707 倍)。
⑦ 参照スペクトルとの重ね描き 指針の地盤種別ごとの上限・下限スペクトル、および必要に応じて道路橋示方書の標準加速度応答スペクトルと同一図上で比較。 地域別補正係数 cZ を掛けているか否かを図中に明記する。
WAVE PROCESSING FLOW 公開波形 整数値+ヘッダ スケール適用 → 速度 (cm/s) 微分 (×iω) → 加速度 (gal) 基線補正・積分 PGA / PGV / PGD 応答スペクトル h=5% / 0.02–5 s 指針スペクトル(地盤種別 上限/下限)・下限地震動と重ね描き → 全周期帯で支配的な波を抽出 → 1次元地盤応答解析へ 検証:既往ソルバ(EQWAVE 等)と全点突合 最大偏差 0.06% 以内であることを確認してから採用
FIG.2 — 公開波形から採用波決定までの処理フロー

5. 参照スペクトル ── 何と比べるのか

算定した応答スペクトルは、必ず基準側のスペクトルと同一図上で比較します。 水道施設耐震工法指針では、基準水平震度 Kh02 の上限値・下限値が地盤種別ごとに与えられており、 加速度応答スペクトルは次の関係で扱えます。

Sa = Kh02 × g (g = 1,000 gal として指針図の折点と一致)

Sa:加速度応答スペクトル(gal)、Kh02:レベル2地震動の基準水平震度、 g:重力加速度。指針の定義は「構造物の重心における加速度応答スペクトル値を重力加速度で除したものが Kh02」です。

参考として、Ⅱ種地盤(h=5%・地表面構造物)の上限/下限スペクトルは次の形で表せます。

Ⅱ種地盤T < 0.1 s0.1 ≤ T < 0.2 s0.2 ≤ T ≤ 1.0 s1.0 s < T
上限(gal)8005130·T0.80714001400·T−1.402
下限(gal)7002291·T0.51510001000·T−1.421

指針の図は横軸 0.1 s からの表示のため、T < 0.1 s は原則描画しません。 Ⅰ種・Ⅲ種についても同様の区分式が与えられています。減衰定数が5%以外の場合は √(5/h) 倍で補正します。 道路橋示方書V のレベル2標準加速度応答スペクトル(タイプI/II × Ⅰ〜Ⅲ種)を併記すると、 発注者・審査側の直感と照らし合わせやすくなります。

6. 採用波の決定 ── 「大きい波」ではなく「効く波」を選ぶ

加速度応答スペクトルが大きい波が、必ずしも構造物にとって厳しい波とは限りません。 選定方針は照査対象の構造形式によって変える必要があります。

構造形式支配的な地震作用採用波の判定指標
地上水槽(PCタンク等)躯体慣性力+動水圧構造物の固有周期帯における加速度応答スペクトル値
半地下・地中構造物地盤変位(周面せん断力・地震時土圧)地表面と底版軸心の相対変位および最大せん断ひずみ(1次元地盤応答解析の出力で比較)

半地下構造の場合、候補波それぞれについて1次元地盤応答解析を実施し、 その出力(相対変位・最大せん断ひずみ)を並べて総合的に大きい方を採用します。 液状化を考慮する場合は、非液状化時と液状化時の両方を比較します。

ボーリング(例)相対変位 (cm)
直下型
相対変位 (cm)
下限地震動
最大せん断ひずみ
直下型
最大せん断ひずみ
下限地震動
採用
孔 A7.127.70.0240.298下限地震動
孔 B11.115.30.0250.030下限地震動
孔 C6.113.80.0230.133下限地震動
孔 D4.612.40.0190.212下限地震動

当社解析例(液状化時・施設名非公開)。相対変位は地表面と底版軸心の最大水平変位の差、 ひずみは全層の最大せん断ひずみ。この例では、加速度応答スペクトルだけでなく 地盤応答まで通した結果で下限地震動が支配的と確認できたため、 構造解析の入力を1波に絞り込めています。

7. 検証 ── 「その数値、再現できますか」

応答スペクトルの算定は、ツールが変われば値が変わり得ます。 当社では自社の算定結果を、既往の標準的ソルバ(EQwave 等)の出力と 全周期点(91点)× 全波形で突合し、最大偏差が有効数字による丸め差 (0.06%程度)に収まることを確認したうえで採用しています。

これが実務で効く場面: 協議や審査で「その応答スペクトルはどう出したのか」と問われたときに、 アルゴリズム(Nigam & Jennings 厳密解)、条件(h、周期範囲、分割数、基線補正、積分カットオフ)、 および既往ソルバとの突合結果を提示できると、以後の議論が一度で終わります。 数値そのものより、再現可能性が信用をつくります。

8. 実務チェックリスト

  • 特記の「方法1〜3を比較」は、入力地震動の比較であって構造解析3系統ではないことを、協議記録で共有したか
  • 方法1(強震動評価)まで実施するのか、方法2ベースでよいのかを発注者に確認し、書面に残したか
  • 方法1を実施する場合、波形作成費を独立項目として計上したか
  • 入力波のケース数(1波/複数波の包絡)を協議で確定したか
  • 地域防災計画の想定地震で、波形データが入手可能なものを網羅したか。入手不可のものはその旨を記載したか
  • 採用したメッシュコードと、施設が属するメッシュの関係を報告書に明記したか
  • 波形が速度か加速度か、単位、スケールファクタ、ヘッダ行数を確認したか
  • 基線補正の有無・種類、積分ハイパス周波数を報告書に記載したか
  • Δt と FFT点数(2のべき乗)が整合しているか。構造解析側のΔtとの関係を確認したか
  • 減衰定数 h と、5%以外の場合の √(5/h) 補正を明記したか
  • 指針の地盤種別スペクトル(上限・下限)および方法4の上限値との比較図を作成したか
  • 下限地震動を下回っていないことを確認したか
  • 採用波の判定指標が、対象構造物の形式(地上/地中)に合っているか

地震動の設定だけ、波形処理だけ、のご依頼にも対応します

「方法1〜3の比較表を作れる人が社内にいない」
「J-SHISから落とした波形が使える形にならない」
「応答スペクトルの根拠を審査で説明できる形にしたい」——

当社は設計地震動の設定・波形処理・応答スペクトル算定を単独工程として受託しています。 成果は、比較表・スペクトル重ね描き図・数値表(CSV)・採用理由の記述文まで、 報告書にそのまま貼れる形でお渡しします。
構造解析まで一貫して当社で行うことも、地震動設定だけをお受けすることも可能です。

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9. よくあるご質問

方法2で使える公開波形があるかどうか、事前に調べてもらえますか。

対象施設の緯度経度をいただければ、該当メッシュで波形が公開されているか、どの想定地震が対象になるかを事前に確認してご回答します。ここが分かるだけで、方法1が必要かどうかの見通しが立ち、見積の精度が大きく変わります。

波形は持っているので、応答スペクトルの算定と図化だけお願いできますか。

可能です。波形ファイル(形式は問いません)と、必要な条件(減衰定数、周期範囲、参照スペクトルの種類、cZの扱い)をご指示いただければ、図・数値表・条件記載文をセットでお渡しします。

下限地震動は必ず設定しなければいけませんか。

方法1〜3で設定した地震動が過小にならないよう、下限値の確認は行うべきです。指針の参考資料に下限値地震動の例が示されており、これを下回る場合は下限側を採用するのが安全側の扱いになります。

複数波を入力する場合と1波の場合で、費用はどのくらい変わりますか。

地震動設定そのものの費用はほとんど変わりません。変わるのは構造解析側で、非線形時刻歴解析は波数に比例して計算時間と結果整理工数が増えます。3次元シェルモデルなら3波でおおむね3倍とお考えください。だからこそ、採用波数は着手時協議で確定しておく必要があります。

関連する技術資料

出典・参考:水道施設耐震工法指針・解説(2022年版)本編 第3章・第4章および参考資料/ 同(2009年版)総論解説編/2002年制定 コンクリート標準示方書[耐震性能照査編]付録/ 道路橋示方書・同解説 V 耐震設計編/防災科学技術研究所 J-SHIS「震源断層を特定した地震動予測地図」/ Nigam, N.C. and Jennings, P.C. (1969)。 本ページは技術説明用に再構成したものであり、条項番号・数値は必ず原典をご確認ください。 掲載している数値例は当社が受託した業務の一部を施設名・発注者名・地域を伏せて一般化したものです。

※ 本ページは技術説明を目的とした解説であり、個別案件の設計・照査を代替するものではありません。 設計地震動の設定は、施設の重要度・地域防災計画・地盤条件・発注者との協議により決定されます。