1次元地盤応答解析の実務|LANDPLUS.WORK
TECHNICAL NOTE / GROUND RESPONSE  03

1次元地盤応答解析の実務
モデル化から構造解析への受け渡しまで

地盤応答解析は「地表面加速度を出すための前工程」だと思われがちですが、 実際には構造解析に渡す4種類の出力を作る工程です。 地盤変位・応答加速度・せん断ひずみ・過剰間隙水圧比 —— このどれを構造側で使うかによって、必要なモデル化の精度も、 全応力/有効応力の選択も変わります。 本ページでは、地盤モデルの組み方から採用波の決定までを実務手順で整理します。

1次元地盤応答解析 等価線形/逐次非線形 有効応力解析 液状化 地盤種別 TG 応答変位法

1. 何のために解くのか ── 出力は4種類ある

1次元地盤応答解析の目的は「地表面加速度を出すこと」だけではありません。 構造解析側が何を必要とするかによって、使う出力が変わります。 逆に言えば、構造側の手法が決まらないと、地盤解析の要求精度も決まりません

OUTPUT 01最大応答加速度地上構造物の慣性力。震度法・応答スペクトル法の入力。地表面時刻歴として動的解析にも渡す。
OUTPUT 02最大水平変位(深度分布)地中・半地下構造物の応答変位法における強制変位。地表面と底版軸心の相対変位が支配。
OUTPUT 03最大せん断ひずみ地盤ばね定数の低減、地盤の非線形化の程度の確認。採用波の判定指標にも使う。
OUTPUT 04過剰間隙水圧比 ru液状化の進行度。ru→1 で有効応力消失。地盤反力係数の低減・側方流動判定に直結。
構造形式による役割の違い:
地上水槽(PCタンク等)では、地盤は「底版下の地盤ばね」と「地表面加速度」を与える存在で、 地盤変位はモデルに入りません。
半地下・地中構造物では逆に、地盤変位こそが支配的な地震作用となり、 地盤ばね(KH・KV・KS)+地盤変位+周面せん断力+地震時土圧を すべてモデルに入れます。同じ敷地内でも、施設によって地盤解析の使い方が逆になります。

2. 解析手法の選択 ── 等価線形か、逐次非線形か、有効応力か

手法考え方適用の目安限界
等価線形解析
(SHAKE 系)
有効ひずみに対応する G・h を反復収束させ、線形解析で近似する。周波数領域で解く。 L1、あるいはひずみが小さい地盤。予備検討。計算が速く安定。 大ひずみ域(おおむね γ > 1%)で精度が低下。液状化を扱えない
逐次非線形解析
(全応力)
応力〜ひずみ関係を骨格曲線+履歴則で直接追跡し、時間領域で逐次積分する。 L2。ひずみが大きくなる地盤。非液状化層 過剰間隙水圧の発生・消散を表現できない。
有効応力解析
(液状化)
過剰間隙水圧の上昇を考慮し、有効応力の低下に伴う剛性低下を追跡する。 L2かつ地下水位以深の砂質土・礫質土で液状化の可能性がある層。 パラメータ設定の根拠が問われる。計算負荷が大きい。
順序を間違えないでください。 L2地震動を設定しただけでは「液状化する」とは判定されません。 FL法等による液状化判定で対象層を確定させてから、 液状化が生じる層に有効応力モデルを適用します。 非液状化層は全応力モデルとして併用できます。 「L2だからすべて有効応力解析」は過剰であり、 「L2でも全応力だけ」は不足です。層ごとに切り分けてください。

3. 地盤モデルの作り方

3.1 層分割

柱状図の地層区分をそのまま使うのではなく、1層あたりおおむね1m前後に細分します。 層厚が大きすぎると高振動数成分が伝達されず、応答が過小評価されます。 分割の境界には、地表面・地下水位・構造物底版軸心・地層境界・工学的基盤面を 必ずノードとして立ててください。底版軸心にノードがないと、 応答変位法に必要な相対変位が読み取れません。

3.2 せん断弾性波速度 Vs

実務での優先順位は明確です。報告書には層ごとにどの根拠を用いたかを明記します。

優先度根拠留意点
1(最優先)PS検層の実測値今回の調査で実施した孔。最も説明力が高い。
2隣接孔からの地層対比による準用既往孔(PS検層なし)に対して、同一地層・同一深度帯の実測Vsを充てる。対比の根拠を断面図で示す。
3N値からの推定式による換算薄層や特殊な土質のみに限定。準用も対比もできない層に用いる。

3.3 工学的基盤の設定 ── 既往孔が届いていない問題

工学的基盤面は、十分に硬質で以深の応答が地表面応答に影響しないと判断できる層の上面に設定します。 問題は、既往ボーリング(昭和・平成初期)が工学的基盤に達していないケースが多いことです。

実務での処理: 新規に実施したボーリング(工学的基盤到達)と既往孔を地質断面図上で対比し、 既往孔の孔底以深の層構成を断面図に基づいて延伸して、 基盤層上面までモデルを繋ぎます。この処理は必ず「モデル作成用断面図(基盤層設定)」として 資料化し、報告書に添付してください。延伸の根拠を残していないモデルは、 照査段階で必ず指摘されます。

3.4 動的変形特性(G/G0〜γ、h〜γ)

土質別の動的変形特性は、土質試験(繰返し三軸試験)による実測が最良ですが、 実測がない場合は既往の標準曲線を用います。上下水道分野では 「土木研究所資料 第1778号」(建設省土木研究所, 1982)に基づく設定が一般的です。 履歴減衰の上限値 hmax は土質区分ごとに与えられ、実務では次のような値が用いられます。

土質区分hmax(目安)備考
0.21地下水位以深かつ緩い場合は液状化対象層の候補
0.24N値が高くても礫質土の液状化は条件により検討対象
粘土0.17液状化対象外。ただし軟弱粘土の大ひずみに注意

上表は実務で用いられる代表値の一例です。採用値は必ず参照資料の該当箇所で確認し、 報告書に出典を明記してください。基盤の粘性減衰(基盤ダンピング)を別途設定する場合は、 その値も記載します。

4. 耐震設計上の地盤種別(TG)の判定

地盤種別は設計水平震度を直接左右します。「近傍施設からの推定でⅠ種」としていた施設が、 実測でⅡ種・Ⅲ種になれば、震度が一段跳ね上がります。 地盤の基本固有周期 TG は次式で算定します。

TG = Σ ( 4 · Hi / Vsi )

Hi:i番目の地層の厚さ(m)、Vsi:i番目の地層のせん断弾性波速度(m/s)。 対象は地表面から工学的基盤面まで。Vsi は解析モデルと同一の値を用います (PS検層実測値および準用値)。

地盤種別地盤の基本固有周期 TG(s)備考
Ⅰ種TG < 0.2洪積地盤および岩盤
Ⅱ種0.2 ≤ TG < 0.6Ⅰ種、Ⅲ種地盤以外
Ⅲ種0.6 ≤ TG軟弱地盤

判定結果は、地質調査報告書側の判定と必ず突合してください。両者が食い違ったまま 報告書に載ると、照査段階で必ず問われます。判定表には 孔ごとの工学的基盤面までの層厚・TG・種別を並べ、 全孔で同一種別になるか、ばらつくかを明示します。

5. 出力の読み方 ── 深度分布で4つ並べる

成果図は、共通の縦軸(標高)に対して、最大応答加速度・最大水平変位・最大せん断ひずみ・ 過剰間隙水圧比の4つを並べるのが標準です。 共通基準線として地表面・地下水位・構造物底版軸心・工学的基盤面を必ず引きます。

1D GROUND RESPONSE — OUTPUT SET 地盤柱状図 砂 As/Ag 礫 Dg 粘土 Dm 砂礫 Ds/Dg 工学的基盤 地表面 地下水位 底版軸心 工学的基盤面 最大応答加速度 gal → 最大水平変位 相対変位 cm → 最大せん断ひずみ 液状化層 γ → 過剰間隙水圧比 ru ru=1.0 0 → 全応力 液状化 水圧比
FIG.3 — 深度分布の標準的な成果図構成(模式図。曲線形状はイメージ)

6. 採用波の決定 ── 地盤を通してからでないと分からない

工学的基盤面での応答スペクトルが大きい波が、地表付近で最も厳しいとは限りません。 地盤の非線形化が進むと高振動数成分が減衰し、順位が入れ替わることがあります。 半地下・地中構造物では、候補波それぞれについて地盤応答解析を実施し、 地表面と底版軸心の相対変位・最大せん断ひずみで比較して採用波を決めるのが実務です。

ボーリング
(例)
相対変位 (cm)
直下型地震
相対変位 (cm)
下限地震動
最大せん断ひずみ
直下型地震
最大せん断ひずみ
下限地震動
採用
孔 A7.127.70.0240.298下限地震動
孔 B11.115.30.0250.030下限地震動
孔 C6.113.80.0230.133下限地震動
孔 D5.110.50.0230.125下限地震動
孔 E4.612.40.0190.212下限地震動
孔 F4.35.70.0200.129下限地震動

当社解析例(液状化時・施設名および地域は非公開)。相対変位は地表面と底版軸心の最大水平変位の差、 ひずみは全層の最大せん断ひずみ。この例では、孔によって差の大きさは異なるものの 全孔で同一の波が支配的となったため、構造解析の入力を1波に統一でき、 解析ケース数を大幅に圧縮できています。ここが分かれると、断面ごとに入力波が変わり、 整理工数が跳ね上がります。

7. よくある落とし穴

落とし穴何が起きるか対処
底版軸心にノードがない応答変位法に必要な相対変位が読めず、層境界からの内挿で誤魔化すことになる層分割の段階で構造物の主要レベルをノードに立てる
既往孔の延伸根拠が残っていないモデル下端の妥当性を説明できない断面図に基づく延伸を資料化して添付
液状化判定をせずに有効応力解析対象外の層まで液状化させ、過大な応答になるFL判定で対象層を確定してから層ごとにモデルを切替
等価線形で大ひずみ域を解くγ が数%に達しているのに収束計算だけで済ませ、応答を誤る出力のγを必ず確認し、大きい場合は逐次非線形に切替
地質調査報告書の地盤種別と食い違う照査段階でどちらが正か問われるTGの算定条件(Vsの出典、対象範囲)を明記して突合
液状化判定後の追加検討が見積外地盤反力係数の低減再解析・側方流動・直接基礎の沈下傾斜が丸ごと未計上見積備考に「液状化層が確認された場合は別途協議」と明記

8. 実務チェックリスト

  • 構造解析側が必要とする出力(加速度/変位/ひずみ/水圧比)を、解析着手前に確定したか
  • 層分割は十分に細かいか。地表面・地下水位・底版軸心・地層境界・基盤面がノードになっているか
  • Vs の根拠(PS検層実測/準用/N値換算)を層ごとに記録したか
  • 工学的基盤の定義と、既往孔の延伸根拠を資料化したか
  • 動的変形特性の出典と hmax の設定値を明記したか
  • TG と地盤種別を算定し、地質調査報告書の判定と突合したか
  • 液状化判定(FL法等)で対象層を確定してから、有効応力/全応力を層ごとに割り当てたか
  • 非液状化時・液状化時の両ケースを実施し、比較表を作成したか
  • 候補波ごとに解析し、相対変位・最大せん断ひずみで採用波を決定したか
  • 出力のせん断ひずみが手法の適用範囲内に収まっているか確認したか
  • 成果図の共通基準線(地表面・地下水位・底版軸心・基盤面)をすべて描いたか

1次元地盤応答解析だけの外注、承っています

「構造解析はできるが、地盤応答を回せる人がいない」
「液状化を考慮した有効応力解析まで求められている」
「柱状図とPS検層はあるが、モデル化から先が止まっている」——

当社は、柱状図・PS検層・地質断面図をお預かりして、地盤モデル作成から 解析・成果図(深度分布図)・条件表・報告書記述文までを一括でお渡ししています。 非液状化時/液状化時の比較、複数波・複数孔のケース整理、採用波の選定根拠までを含みます。
成果はExcel条件表・図版(PNG/ベクタ)・数値CSVでお渡しするため、 貴社の報告書フォーマットにそのまま組み込めます。

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9. よくあるご質問

どの資料を送れば見積が出せますか。

ボーリング柱状図(電子データが望ましい)、PS検層結果、地質断面図、対象構造物の断面図(底版レベルが分かるもの)、特記仕様書の該当部分。この5点があれば、孔数・波数・液状化考慮の有無を踏まえた見積を提示できます。

PS検層がありません。解析できますか。

N値からの推定式で Vs を設定して解析すること自体は可能です。ただし重要度の高い施設では、実測がないこと自体が照査で問われます。まず既往調査でPS検層が実施されていないかを確認し、なければ推定式による設定であることを明記したうえで、感度検討(Vsを上下に振った場合の応答の変動)を添えることを推奨しています。

2次元動的FEMまで必要でしょうか。

地盤が一様かつ良質であれば、1次元で十分なことが多いです。地層が傾斜している、埋設構造物が近接している、盛土と原地盤の境界にまたがるといった条件では2次元を検討します。ボーリング結果を見てから判断するのが合理的で、着手時協議事項として整理しておくことをお勧めします。

解析結果の妥当性はどう担保していますか。

入力波は既往の標準的ソルバと応答スペクトルを全点突合し、地盤モデルは条件表として全層のパラメータを開示します。出力は非液状化時と液状化時を並べ、せん断ひずみが手法の適用範囲に収まっているかを毎ケース確認しています。数値だけでなく、再現できる形で条件を残すことを成果の一部と考えています。

関連する技術資料

出典・参考:水道施設耐震工法指針・解説(2022年版)/土木研究所資料 第1778号(建設省土木研究所, 1982)/ 各ボーリング柱状図・PS検層結果・地質調査報告書。 本ページは技術説明用に再構成したものであり、条項番号・数値は必ず原典をご確認ください。 掲載している数値例は当社が受託した業務の一部を施設名・発注者名・地域を伏せて一般化したものです。

※ 本ページは技術説明を目的とした解説であり、個別案件の設計・照査を代替するものではありません。 地盤定数の設定、解析手法の選定、液状化判定の要否は、施設の重要度・地盤条件・発注者との協議により決定されます。