本稿の位置づけ
掲載している数値は、内径30.0m・半頂角30°の円形PC配水池を想定して本稿のために構成した設計例 であり、実在施設の設計計算書ではありません。
考え方は水道施設の耐震設計・PC構造設計の一般的な手順に沿っていますが、実施設計では施設固有の諸元、荷重の組合せ、照査方針、および技術者の判断が必要 です。本稿は技術説明を目的としたものであり、設計成果を代替するものではありません。
1. 設計の全体フロー
ドームリングのプレストレス設計は、二本の独立した流れが最後に合流する形をしています。
荷重側 はドーム自重から必要なプレストレス力 Fd を求める流れ、材料側 は1本のPC鋼材が張力を失っていく流れです。
両者は単位が違う(前者は最終有効値、後者は緊張時の値)ため、そのままでは結べません。これを橋渡しするのが有効比 C であり、これが最終的な配置本数を決めます。
荷重側 ─ 必要なプレストレス力を求める
ドーム荷重 W 3 619.6 kN
→
水平スラスト Ht 66.5 kN/m
→
リング引張力 F1 997.8 kN
+
余裕圧縮分 F2 267.5 kN
→
所要緊張力 Fd 1 265.3 kN
材料側 ─ 1本のPC鋼材に何が残るか(応力度 N/mm²)
緊張時 σpi 1 395
−
摩擦+セットロス 318.1
−
弾性変形 18.5
−
クリープ・収縮 72.3
−
リラクセーション 52.9
→
有効 σpe 933.3
合流 ─ 配置本数の決定
有効比 C = σpi /σpe 1.495
→
N = Fd ·C / Pi 5.56 本
→
配置本数 19本より φ19.3 ×6本
2. ドーム本体 ── 半頂角30°の意味
図1 ドーム支承部における力の分解
膜力 N_φ は球面の接線方向に働き、その傾きは半頂角に等しい。したがって H_t = V ÷ tan30°。
r = 30000
(球心方向)
S_d = 30000 (半頂角30°では S_d = r)
ライズ 4019
30°
H_t = 66.5 kN/m
V = 38.4 kN/m
N_φ(膜力・接線方向)
ドームシェル t = 120
ドームリング
PC壁体 t = 250
端部拡幅部 2200
ドームは「外へ押し広げる」構造。 支承部の膜力は球面の接線方向を向き、その水平成分がリングを外へ引っ張る。
これを受け止めるのがドームリングであり、リングを圧縮に保つのが円周方向PC鋼材の役目である。
2.1 膜理論で応力分布が説明できる
球殻に等分布荷重が作用するときの膜力は、頂点からの角 φ に対して次式で表されます。Nφ が経線(子午線)方向、Nθ が周方向です。
Nφ = q·r / (1 + cos φ) … 常に圧縮
Nθ = q·r · [ 1/(1 + cos φ) − cos φ ] … φ が大きいと引張へ転じる
頂点(φ = 0)では両式とも q·r/2 となり、経線方向と周方向の応力が一致します。
設計例では表面荷重 q = 3.407 kN/m²(シェル自重 2.94 + 積載相当 0.47)、r = 30.0 m、t = 0.120 m として、頂点で σ₁ = σ₂ = 0.426 N/mm² となります。
図2 膜応力の φ による変化 ── なぜ半頂角を 30° にとどめるのか
本設計例の範囲(0–30°)
0.60 0.40 0.20
0 −0.20
応力度 (N/mm²)
圧縮
引張
0° 10° 20°
30° 40° 50° 60°
頂点からの角 φ
φ = 51.8°
周方向が引張に転じる
σ₁ 経線方向
σ₂ 周方向
0.456
0.281
周方向応力 σ₂ は φ とともに減少し、φ = 51.8° でゼロを横切って引張に転じる。
(cos²φ + cosφ − 1 = 0 → cosφ = 0.618)。半頂角を 30° にとどめる設計が多いのは、ドーム全断面を圧縮に保ち、受力鉄筋も防水対策も不要にするためである。
配筋が「最小鉄筋量」で決まる理由
発生応力 0.43〜0.46 N/mm² に対し、許容圧縮応力度は 8 N/mm² 前後。余裕はおよそ17倍 あります。
つまり強度上、ドームシェルに受力鉄筋はほぼ不要 で、配筋は温度応力・乾燥収縮ひび割れの制御が目的になります。
このとき鉄筋比の分母は全断面 b×t (有効高 d ではない)である点に注意が必要です。
設計例では中央部 D6@100(t=120)で 0.264%、端部 D13@200ダブル(t=500)で 0.253% となり、いずれも 0.25% をわずかに上回るだけの配筋になります。
3. スラストからリング引張力へ ── 「余裕圧縮力」の思想
積載荷重 Wl = ql ·(π/4)·Sd ² = 0.5 × 0.7854 × 30.0² = 353.4 kN ← 水平投影面積 706.9 m²
ドーム荷重 W = 2227.4(シェル)+ 1038.8(端部拡幅部)+ 353.4 = 3619.6 kN
水平スラスト Ht = W /(π·Sd ·tan30°) = 3619.6 / 54.41 = 66.5 kN/m
リング引張力 F1 = Ht ·Sd /2 = 66.5 × 15.0 = 997.8 kN
余裕圧縮分 F2 = 1.0 N/mm² × AR = 1000 × 0.2675 = 267.5 kN
所要緊張力 Fd = 997.8 + 267.5 = 1265.3 kN
積載荷重が水平投影面積 (706.9 m²)に作用し、球面面積(757.6 m²)ではない点は、膜応力の分布を手計算で追うときにわずかな差として現れます。
設計例では両者を区別して扱っています。
3.1 リングをゼロにせず、圧縮を残す
ドームリングに与えるプレストレス力は、水平スラストによる引張力を打ち消すだけでは足りません。
打ち消したうえで、なお 1 N/mm² 程度の残留圧縮を確保する のが一般的な考え方です。理由は三つあります。
第一に、プレストレス損失は推定値であり、実際の損失が想定を上回る可能性があること。
第二に、貯水構造物ではリングの受拉がひび割れ、ひび割れが漏水に直結すること。
第三に、この段階では温度変化や地震時の影響がまだ考慮されていないことです。
設計例ではこの余裕圧縮分が所要緊張力の 21% を占めています。
簡易式に含まれる保守性 ── FEM結果と食い違う理由
スラスト算定式の W には端部拡幅部の自重(設計例で 1038.8 kN)が含まれます。しかしこの楔形コンクリートはリングに直接載る鉛直荷重 であり、水平スラストはほとんど生みません。
これを除いて計算すると Ht = 47.4 kN/m となり、簡易式は推力を約1.40倍に見込んでいる ことになります。
自前でFEMモデルを組むと 66 ではなく 47 前後の値が出ますが、それはモデルの誤りではなく、簡易式が安全側に余裕を持たせていることの反映です。
既存構造物の耐震診断で「当初設計 vs 実態解析」を比較する際に、必ず遭遇する差です。
4. PC鋼材の位置 ── ピラスターはなぜ存在するのか
円周方向PC鋼材の中心半径 Rp の決め方は、一見すると単なる位置決めですが、円形PC構造の構成原理がここに現れます。
Rp = 15.000(壁内面)
+ 0.125 … 壁厚の半分 = 壁中心
+ 0.020 … 縦締シース(φ40)の半径
+ 0.0015… 横締シース厚
+ 0.00965… PC鋼材の半径
= 15.1562 m (Ri = 15.000 / Ro = 15.250)
つまり縦締(鉛直方向)シースが壁の中心線を占有しているため、横締(円周方向)PC鋼材はその外側を通るしかない という関係です。
二系統の緊張材が空間的に譲り合った結果が Rp であり、これが以降の幾何すべてを支配します。
図3 ピラスター部の幾何 ── PC鋼材は壁外面より外へ出る
縦軸は R_p からの半径方向偏差。半径方向は円周方向の約3.6倍に拡大して表示。
ピラスター外形(模式)
R_o
15250.0 壁外面
R_p
15156.2 鋼材中心
R_i
15000.0 壁内面
壁体(厚 250)
壁外面を横切る点 s = 213 mm
これより定着側では鋼材は壁の外
切点 s = 1900
ここから先は R_p の円弧
定着
s = −1100
ピラスター中心 s = 0
+200
mm
+24.8 mm
93.8
156.2
直線部 ℓ₁ = 3000 = 1100 + 1900
ψ = arctan(ℓo1 /R p ) = arctan(1900/15156.2) = 7.145°
PC鋼材はピラスター内では直線(弦)を走り、切点から先は Rp の円弧になる。
直線であるがゆえに、切点から離れるほど半径が増える。設計例ではピラスター中心で √(15156.2² + 1900²) = 15274.8 mm となり、壁外面 15250.0 mm より 24.8 mm 外側 。定着位置ではさらに 200 mm 外側 を走る。
ピラスターが必要になる順序はここにある ── 定着具を置くために増厚するのではなく、鋼材が壁からはみ出すので局部的に増厚し、その増厚部に定着具を置く、という順序である。
5. 摩擦損失 ── 定着柱の数が決まる理由
円周方向の緊張材は、6箇所のピラスター(定着柱)で定着し、1本のストランドが中心角120°を受け持ち、次段のストランドは隣のピラスターで交互に定着する ── というのが標準的な配置です。
緊張は両端で同時に行うため、摩擦角は 120°/2 すなわち 60° の範囲で計算します。この一文に、円形PC構造の運用設計がすべて含まれています。
図4 6箇所のピラスターと 120° 分割・交互定着
P1 P2 P3
P4 P5 P6
タンク平面
D = 30000
なぜ 1本=120° なのか
摩擦損失は指数則。1本で360°を回すと…
e^(μ·2π) = e^(0.30×6.283) = 6.59
→ 最遠部に残るのはわずか 15% ── 成立しない
120° に分割し両端同時緊張 → 片側 60°
e^(μα + λℓ₂)·e^(λℓ₁) = 1.4115 → 残 70.8%
それでも摩擦だけで 29% を失う。
なぜ交互定着(staggered)なのか
各ストランドの張力は 100% → 71% と減衰する。
全段を同じ柱で定着すると、円周上に「最弱の
子午線」ができてしまう。1段ずつずらすことで、
A段の最弱点に B段の定着端(強い側)が重なり、
平均すると円周方向の圧縮がほぼ均等になる。
1段目:P1→P3→P5→P1
2段目:P2→P4→P6→P2(交互)
ピラスターは 360°/6 = 60° 間隔。1本のストランドは 120°(=2間隔)を受け持ち、1つ飛ばしたピラスターで定着する。
ピラスターが6箇所ある理由は「定着具を置く場所」ではなく「摩擦角を小さく保つため」。
ψ = arctan(ℓo1 /Rp ) = 7.145° (直線部が受け持つ中心角)
α = 60.000 − 7.145 = 52.855° = 0.9225 rad (円弧部の中心角)
ℓ₂ = Rp ·α = 15.156 × 0.9225 = 13.981 m
ℓ = ℓ₁ + ℓ₂ = 3.000 + 13.981 = 16.981 m (ストランド半長)
直線部 e^(λ·ℓ₁) = e^(0.004×3.000) = 1.0121
円弧部 e^(μ·α + λ·ℓ₂) = e^(0.30×0.9225 + 0.004×13.981) = 1.3947
合計 = 1.4115
∴ 最遠部 = 定着端 × 0.708 ← 摩擦だけで 29% 消失
6. セットロス ── 最大値は定着端に現れない
ジャッキを解放するとき、定着具のくさびが Δℓ = 3.5 mm 程度引き込まれます。
この引込み量はストランド自身の弾性伸びで吸収するしかなく、その代償として定着端付近の張力がかえって下がります 。
引込みによって失われる張力の「面積」は、次式で与えられます。
Aep = Δℓ × Ap × Ep = 3.5 mm × 243.7 mm² × 200 000 N/mm² = 170.6 kN·m
(= 力の損失図形の面積。これを摩擦勾配で割ると影響長が求まる)
影響長 L = 6.10 m (半長 16.98 m の 36%)、限界点までの摩擦降下 ΔP = 28.0 kN
P₃ = 340.0 − 28.0 = 312.0 kN ≤ Pat = 322.0 kN … O.K.(余裕 3.2%)
P′₂ = P₂ − 2·ΔPcurve = 288.1 kN ← 鏡像則
Pt = (P′i + P₄)/2 = (284.1 + 240.9)/2 = 262.5 kN → σ′pt = 1077.1 N/mm²
引込み後の張力分布は、元の摩擦曲線を「影響限界点を通る水平線」に関して折り返した形になります。
逆流摩擦の勾配が正流と同じ大きさで符号だけ逆だからです。したがって、セット後の値は「元の値 − 2×(限界点までの摩擦降下)」で求まります。
図5 緊張力の分布(定着端 P_i = 1.000 で正規化)
1.00 0.90 0.80 0.70
許容 P_at / P_i = 0.947
平均 P_t = 0.772
P_i = 1.000
P₂ = .988
セットロス影響限界点 = 最大値
P₃ = .918 (許容まで余裕 3.2%)
P′₂ = .847
P′_i = .836
P₄ = .708(最遠部)
直線部 ℓ₁=3000
円弧部 ℓ₂=13981(α = 52.855°)
定着端
中央(最遠部・60°)
セット前(摩擦のみ)
セット後(実際の分布)
引込み後、ストランド内力の最大値は定着端ではなく「セットロス影響限界点」に現れる。
定着端は 0.836 まで落ち込み、途中の山 0.918 が最大となる。許容値の照査はこの山に対して行う必要がある。
定着端付近の V 字形のくぼみがセットロスの特徴的な形である。
7. 弾性変形・クリープ・リラクセーション
7.1 弾性変形と係数 ½ の意味
Δσp = ½ × n × σcpg σcpg = Fd /AR × 1/η
σcpg = 1265.3/0.2675 × 1/0.85 = 5.565 N/mm²
Δσp = ½ × 6.667 × 5.565 = 18.5 N/mm²
σpt = 1077.1 − 18.5 = 1058.5 N/mm²
ポストテンションで複数本を順次緊張すると、最初に緊張した1本は以後すべての短縮を被り、最後の1本は何も失いません 。
平均すれば弾性圧縮量のちょうど半分になる ── これが ½ の出どころです。
η(仮想の有効係数)── 循環計算の回避
Fd は最終有効値 ですが、σcpg に必要なのは緊張直後 の力です。
損失を知るには σcpg が要り、σcpg を知るには損失が要る、という循環になります。
そこで有効係数を 0.85 と仮定して割り戻します。設計例では後段で算出される真の η = 0.882 となり、
仮定値が小さめ → σcpg が大きめ → 損失が大きめ → 安全側 であるため、反復計算は不要と判断できます。
逆に「算出値が仮定値を下回った」場合は再計算が必要です。この確認が書かれていない計算書は要注意です。
7.2 クリープ計算では積載荷重を除く
Δσpφ = [ n·φ·(σcd + σcpg ) + Ep ·εs ] / [ 1 + n·(σcpg /σpt )·(1 + φ/2) ]
永久荷重のみ(積載荷重を除く ): W′ = 2227.4 + 1038.8 = 3266.2 kN
H′ = 3266.2 / 54.41 = 60.0 kN/m F₁′ = 900.4 kN
σcd = −900.4 / 0.2675 = −3.366 N/mm² (リングの引張=圧縮の減少なので負号)
n = 6.667, φ = 2.6, εs = 20×10⁻⁵ として
Δσpφ (クリープ・乾燥収縮) = 72.3 N/mm²
Δσpγ (リラクセーション) = γ·σpt = 0.05 × 1058.5 = 52.9 N/mm²
σcd は「永久荷重による、緊張材位置のコンクリート応力度」です。クリープは長期持続荷重に対して生じる現象であり、変動荷重である積載荷重は参加しません。
設計例では自重のみから σcd を算定しています。実務でよく取り違えられる区別なので、既往の計算書を読むときは必ず確認してください。
なお n = Ep /Ec の Ec は緊張時の材齢における ヤング係数であり、28日値ではありません。
8. 有効比 C と配置本数の決定
σpe = σpt − (Δσpφ + Δσpγ ) = 1058.5 − (72.3 + 52.9) = 933.3 N/mm²
Pe = 933.3 × 243.7 = 227.4 kN
η = 933.3 / 1058.5 = 0.882
C = σpi / σpe = 1395 / 933.3 = 1.495
N = Fd × C / Pi = 1265.3 × 1.495 / 340 = 5.56 本 → 6本配置
配置有効力 = 6 × 227.4 = 1364.7 kN vs 所要 1265.3 kN → 余裕 7.9%
C = 1.495 の意味は「最終有効力 1 を得るには 1.495 の力で緊張しなければならない」ということです。
所要緊張力は有効値、鋼材の能力は緊張時の値であり、単位が違うものを結ぶ換算係数がこの C にあたります。
図6 σ_pi = 1395 N/mm² の行方(総損失 33.1%)
有効 σpe = 933.3 N/mm²(66.9%)
摩擦+セットロス 318.1 N/mm²(22.8%)
弾性変形 18.5 N/mm²(1.3%)
クリープ・乾燥収縮 72.3 N/mm²(5.2%)
リラクセーション 52.9 N/mm²(3.8%)
有効 σ_pe = 933.3 (66.9%)
摩擦+セットロス 318.1 (22.8%)
弾性変形 18.5 (1.3%)
クリープ・乾燥収縮 72.3 (5.2%)
リラクセーション 52.9 (3.8%)
摩擦とセットロスだけで
全損失の 約2/3 を占める
── 円形PC構造に固有の性格
梁のPC部材では摩擦損失は数%に収まりますが、円周を回るこの構造では角変化項 μα が支配的になり、損失の主役が入れ替わります。
§5 の「6箇所定着・120°分割・両端緊張」という配置計画は、すべてこの 22.8% を圧縮するためのものです。
段階 応力度 (N/mm²) 当該損失 累計損失率
緊張時 σpi 1395.0 — —
摩擦+セットロス後の平均 σ′pt 1077.1 318.1 22.8%
弾性変形後 σpt 1058.5 18.5 24.1%
クリープ・乾燥収縮 986.2 72.3 29.3%
リラクセーション 933.3 52.9 33.1%
有効 σpe 933.3 計 461.7 —
整数への切上げが余裕率を左右する
本数は必ず整数に切り上げるため、余裕率は端数の出方で大きく変わります 。
設計例は 5.56 → 6本で余裕 7.9% ですが、たとえば 4.94 → 5本となる設計では余裕はわずか 1.2% しかありません。
後者のような設計では、コンクリート強度を推定値とするか実測値とするかで照査結果が反転します。
既存構造物の耐震診断において実強度の把握が重要になるのは、まさにこうしたケースです。
9. 設計例の諸元一覧
記号 意味 値 単位
r / Sd ドーム半径/スパン(半頂角30°では一致) 30.000 m
t ドームシェル厚 0.120 m
ql 積載荷重(水平投影面積に作用) 0.5 kN/m²
W ドーム荷重合計(自重+端部拡幅部+積載) 3 619.6 kN
Ht 水平スラスト 66.5 kN/m
AR リングビーム断面積 0.2675 m²
F1 / F2 / Fd スラスト分/余裕圧縮分/所要緊張力 997.8 / 267.5 / 1 265.3 kN
Ri / Rp / Ro 壁内面/PC鋼材中心/壁外面 半径 15.000 / 15.156 / 15.250 m
ℓ₁ (ℓo1 +ℓo2 ) ピラスター内の直線部長(1.900 + 1.100) 3.000 m
ψ / α 直線部の中心角/円弧部の中心角 7.145 / 52.855 deg
μ / λ 角変化摩擦係数/波及摩擦係数 0.30 / 0.004 /rad, /m
Δℓ セット量 3.5 mm
Ap / Pi / σpi 19本より φ19.3 の断面積/緊張力/応力度 243.7 / 340 / 1 395 mm², kN, N/mm²
n / φ / εs / γ ヤング係数比/クリープ係数/乾燥収縮度/リラクセーション率 6.667 / 2.6 / 20×10⁻⁵ / 0.05 —
η / C 有効係数/有効比 0.882 / 1.495 —
Pe / N 1本あたり有効引張力/必要本数 227.4 / 5.56 → 6本 kN
10. 既存PC構造物の材料調査における幾何学的制約
既存のPC水槽で耐震診断を行う場合、コンクリートの実強度を把握するためにコア採取と圧縮強度試験を計画することがあります。
このときPC壁体の断面構成を確認せずに標準的なコア寸法(φ100×h200 等)を前提にすると、削孔が緊張材やシースに到達します 。
設計例の壁体断面で、その位置関係を確認します。
図7 PC壁体の水平断面 ── コアはどちらの面からも通らない(尺度 1 px = 1 mm)
壁外面
壁内面(貯水側)
1
2
84
105
壁厚 250
横締PC鋼材 19本より φ19.3
中心 93.8 mm。円周方向に走るため縦の帯
縦締シース φ40(壁中心)
鉛直方向に走るため断面では円
1
φ100 × 深さ200(外面から)
→ 84 mm で横締PC鋼材に到達
2
φ100 × 深さ150(内面から)
→ 105 mm で縦締シースに到達
結論
標準深さのコアは、どちらの面からも
成立しない。
壁厚 250 mm の中に、縦横二系統の緊張材が収まっている。
外面側は 84 mm で横締PC鋼材(中心 93.8 mm、半径 9.65 mm)に、内面側は 105 mm で壁中心の縦締シース φ40 に到達する。
さらに §4 のとおりピラスター内では鋼材が壁外面よりも外側を走るため、ピラスターでの外面からの削孔はより浅い位置で 鋼材に到達する。
調査計画で押さえるべき三点
1. PC壁体でのコア採取は「リスクがある」ではなく「幾何学的に到達する」。
事前に電磁波レーダ等で緊張材位置を特定し、削孔位置・径・深さを実測にもとづいて決めない限り、標準深さのコアは成立しません。
2. 緊張材1本の損傷は「鉄筋1本」とは意味が異なる。
プレストレスの解放は定着区間(設計例では120°)全体で再配分されるため、影響は点ではなく面に及びます。
また余裕圧縮力(設計例で 1.0 N/mm²)は損失を見込んだうえでの最後の余裕であり、これが失われるとリングはひび割れの限界に立ちます。
3. 実測値の要請と構造物の保全は、二者択一ではない。
実強度の把握は診断上きわめて重要ですが、PC部での直接採取は幾何学的に難しい場合があります。
現実的な選択肢としては、事前探査で緊張材位置を特定したうえで鋼材間を狙う、緊張材が壁内に収まっている非定着断面を選ぶ、
RC部で採取した圧縮強度と非破壊試験値の相関を確認しPC部は非破壊で推定する、といった組合せが考えられます。
いずれの場合も、採用した方法と判断の経緯を記録として残すことが重要です。
11. 既往の設計計算書を読むときのチェック観点
耐震診断や補強設計では、数十年前の設計計算書を読み解く場面が必ず生じます。以下は、そうした資料を扱うときに確認しておきたい観点です。
単位換算の丸め 旧単位(kgf)の計算書では 1 kgf/cm² = 0.1 N/mm² と丸めている例があります(厳密には 0.0981、約2%の差)。分子分母で同じ処理なら照査比に影響しませんが、数値を単独で現行解析へ持ち出すときは注意が必要です。
荷重の作用面積 球面面積か水平投影面積か。積載荷重は投影面積、自重は曲面面積というのが通例で、取り違えると数%ずれます。
簡易式に含まれる保守性 スラスト算定に端部拡幅部の自重を算入している場合、推力が1.4倍程度に見込まれます。FEM結果と食い違ったら、まずここを疑ってください。
鉄筋比の分母 最小鉄筋量比は全断面 b×t に対して定義されます。有効高 d と取り違えないこと。
永久荷重と変動荷重の区別 クリープ計算に積載荷重が混入していないか。σcd を自重のみから逆算して確認できます。
仮定値と算出値の整合 有効係数 η を仮定して計算し、後段で算出された値と比較しているか。仮定 < 算出なら安全側で反復不要、逆なら再計算が必要です。
照査の余裕率を洗い出す 余裕1〜2%の照査項目をリスト化しておくこと。そこが実態調査の焦点になり、入力条件の差が結論を左右します。
「最大値の位置」を疑う セットロス後の最大緊張力は定着端ではなく影響限界点に現れます。応力の最大位置が直感と食い違う箇所は他にもあります。
かぶりと緊張材位置は調査計画に直結する Rp と Ro の差、シース径、定着部の配置。これらを読まずにコア採取計画を立てないこと。
実務上の注意
本ページは技術説明を目的として構成した設計例 であり、実施設計・耐震診断の成果を代替するものではありません。
実際の設計・照査にあたっては、施設固有の諸元、水位条件(満水・空虚)、荷重の組合せ、常時/L1地震時/L2地震時の区分、
適用する指針・基準の版、および技術者による判断が必要です。既存構造物の調査計画についても、施設管理者・発注者との協議のうえで決定してください。
本ページの数値は、内径30.0m・半頂角30°の円形PC配水池を想定して本稿のために構成した設計例であり、実在施設の設計計算書ではありません。
算定手順は水道施設の耐震設計およびPC構造設計における一般的な考え方に沿って整理していますが、特定の指針・図書の条項や計算例を引用・再現したものではありません。
掲載した数値はすべて本稿内で内部整合を確認していますが、適用にあたっては最新の基準および施設固有の条件をご確認ください。